不動産信託とは?メリットとデメリットをわかりやすく解説
不動産を所有していると、定期的な管理が必要です。しかし、高齢になって体力が低下したり認知症になったりすると、不動産を維持管理することが難しくなるでしょう。その対策として、第三者に不動産の管理を委託する不動産信託を利用する方法があります。
不動産信託と聞くと、以下のような不安を持つ方がいるかもしれません。
- 不動産信託について聞いたことはあるけど、よくわからない
- 不動産信託に興味があるけど、手続きがむずかしそう
この記事では不動産信託についての基本的な内容、メリットやデメリットを解説します。この記事を読むことで不動産信託についての理解が深まり、不動産運用として始めるかの判断材料になるでしょう。
不動産信託とは?
不動産信託とは、不動産の所有者が信用できる第三者と信託契約を締結し、所有権を移転して不動産の管理などを委託することです。委託した不動産の元所有者は、信託した不動産から発生した収益を得る権利を保有します。
たとえば賃貸用アパートの所有者は、自分が信頼できる人に賃貸用アパートを委託するために信託契約を締結し、賃貸用アパートの所有権を移転させます。
委託された所有者が担う業務は、アパート経営に関する管理運営です。具体的には賃貸用アパートのメンテナンス、家賃収納や空室募集などです。
賃貸アパートの元所有者は、賃貸用アパートの管理運営で発生した収益から信託報酬分を差し引き、残った額を配当金として受領します。賃貸用アパートの管理運営をする負担がなくなっても、収入は得られるのです。
まずは、不動産信託を検討するために必要な5つの専門用語について確認してみましょう。
- 委託者
- 受託者
- 受益者
- 信託受益権
- 家族信託
委託者は不動産の所有者
信託する不動産の所有者のことです。信託不動産を預け、管理や運用を依頼する人のことを委託者と呼びます。
受託者は管理や運用を行う人
受託者は信託不動産の管理や運用を行う人です。信託により不動産の所有権を移転することで、所有者となります。
信託不動産の管理や運用を行うために所有者になるので、受託者の財産とはなりません。
ただし、受託者には信託法や信託業法などの法律により厳しく管理義務が課せられているため、信託不動産は安全に管理されます。
受益者は収益を受ける人
受益者は、信託した不動産の管理や運用から発生した収益を受ける人です。委託者(所有者)自身が受益者になる場合と、委託者に指定された第三者が受益者になる場合があります。
信託受益権は利益を受け取れる権利
信託受益権は、委託者が所有していた不動産を受託者へ信託したあと、不動産から発生する利益を受け取れる権利です。
なお、信託受益権は「みなし有価証券」と呼ばれる金融商品に該当するため、第三者へ売買できます。
家族信託は、所有者以外の家族に不動産の管理権限を与える制度
家族信託は、委託者の家族を受託者に指定して信託契約を締結することです。委託者自身に何かあったときに備えて、家族に財産を管理する権限を与えます。
相続対策のひとつとして有効な方法ともされています。委託者と受益者を同一人物にしないで受益者に子を指定でき、さらに受益者の後継者を指定しておくことも可能であるためです。
不動産信託を活用するメリット
不動産信託の内容を理解すると、実際に運用するメリットが気になるのではないでしょうか。不動産信託を活用するメリットは5つあります。
- 認知症になっても不動産を管理運用または処分可能
- 二次相続で孫へ相続資産を残せる
- 共有不動産の相続トラブルを避けやすくなる
- 不動産の管理・運用負担がなくなる
- 不動産取引の税負担を抑えられる
以下でそれぞれのメリットを解説します。
認知症になっても不動産を管理運用または処分可能
不動産の所有者が信託契約を締結しておくと、認知症を発症しても、委託者による不動産の管理運用または処分が可能です。
不動産の所有者が認知症を発症すると、一般的に判断能力の低下から所有者本人は売却できません。そのため、所有者以外の方が売却しますが、成年後見制度を利用するために、家庭裁判所に申し立てをし認められる必要があります。
しかし、認知症になっても所有者が信託契約を結んでいれば、成年後見制度を利用せずに所有者以外の方が売却できます。
一人暮らしで認知症になると多くの場合、老人ホームへ入居します。自宅が空き家になる状況において、信託契約を締結していないと何もできません。しかし、信託契約を締結しておくと、売却が可能となり入居費用や介護費用に充当できます。
必ずしも認知症を発症して空き家になるわけではないですが、社会問題となる空き家問題の対策として有効です。
二次相続で孫へ相続資産を残せる
家族信託のかたちで受益者に子を指定し、さらに相続人としてその子の子ども(孫)を指定することで、孫へ不動産を残せます。受益者の後継者を定めておくことは、家族信託のみで認められています。
遺言による不動産の相続は、所有者の一次相続までしか指名できません。一次相続者が亡くなったあとに誰が相続するかは、不明です。家族信託で信託契約を締結しておくと、相続人を一次相続以降も決定できます。
委託者の思い通りに不動産を承継させることが可能な方法です。
共有不動産の相続トラブルを避けやすくなる
不動産信託は、収益不動産かつ共有不動産であった場合に起こりやすい相続トラブルの回避に役立ちます。信託受益権が、共有持分の割合により分割して配当できるためです。
不動産信託の受託者は相続人の1人または第三者に任せ、受益者に共有不動産をもつ複数人の相続人を指定します。信託不動産から発生する収益を、共有持分の割合に応じて配当することが可能です。
不動産の管理・運用負担がなくなる
信託契約を結べば、受託者が管理・運用することになります。そのため、不動産の元所有者である委託者は、管理の負担から解放されます。
賃貸用アパートを所有している場合の主な管理業務は入居者の家賃収納、アパートの共有部分のメンテナンスや入居者からの連絡対応などがあります。運用業務は退去予定があれば空室回避の営業、不動産会社との交渉などです。
信託契約の締結により委託者の負担がなくなれば、委託者自身の自由な時間と新たなことに取り組む時間が増えます。
不動産取引の税負担を抑えられる
信託契約を締結した不動産売買による不動産取引は、通常の不動産売買による不動産取引より税負担を抑えることが可能です。不動産取得税が発生しないことと、印紙税を低く抑えられることが特にわかりやすい部分です。
不動産取得税の税率は住宅が固定資産税評価額に対して3%、宅地が評価額の2分の1に対する3%です。仮に住宅が6,000万円、宅地が4,000万円の場合、不動産取得税は240万円です。
住宅が6,000万円、宅地が4,000万円の場合の不動産取得税=6,000万円×3%+ 4,000万円×1/2×3%=240万円
信託不動産の不動産取得の場合だと、240万円の節税です。
1億円の不動産取引で印紙税を試算すると、信託受益権の譲渡を含めた信託不動産売買取引での印紙税は売買契約書1通で200円、信託受益権を譲渡する契約書1通で200円の合計400円です。通常の不動産売買取引の場合、売買契約書1通だけで10万円になります。
不動産信託のデメリット
不動産信託にはデメリットもあります。以下に挙げる3つのデメリットを考慮して、不動産信託を検討しましょう。
- プロに管理運用を任せても、収益配当が少ないおそれがある
- 収益が赤字になっても所得を損益通算できない
- 受託者が誰であるかのトラブルが発生する
それぞれのデメリットの内容を解説します。
プロに管理運用を任せても、収益配当が少ないおそれがある
受託者を信託銀行や不動産会社などのプロに任せても、収益配当が少ないおそれがあります。プロに管理運用を任せることで運用実績に関わらず、信託報酬は必ず差し引かれるためです。
不動産を専門とするプロに委託しても、必ずしも運用実績がよいとは限りません。賃貸アパートを信託不動産としてプロに委託したものの、受託者が入居数維持を意識した営業をしていないと家賃収入が減少して収益も減少します。
信託報酬についても信託先によって設定額が違います。信託報酬以上の家賃収入を得ないと、収益がゼロとなり配当がないこともありえます。
委託先を検討するときは、信託銀行や不動産会社をいくつか選んで比較しましょう。
収益が赤字になっても所得を損益通算できない
一般的な不動産取引で発生した損益は、ほかの所得と損益通算ができます。しかし、信託契約を結んだ不動産により得た不動産所得の損失は、ほかの所得との損益通算ができません。
租税特別措置法により、不動産所得の計算上はないものとするように規定されているためです。
事業所得が800万円である、事業者の所得控除前の課税所得を算出してみましょう。一般的な不動産での不動産所得が100万円の赤字であれば、損益通算により所得控除前の課税所得は700万円です。
しかし、信託不動産での不動産所得が100万円の赤字でも、損益通算ができないため所得控除前の課税所得は800万円のままです。所得控除前の課税所得の差が生じ、納税費用が増えてしまいます。
確定申告をするときには、誤って損益通算しないように覚えておきましょう。
受託者が誰であるかのトラブルが発生する
信託不動産から発生する収益を、共有持分の割合に応じて配当する方法は、相続トラブルの対策として有効です。しかし、受託者を選定した経緯や理由を知らない家族から、不平や不満が出てくるおそれがあります。
相続人以外は信託契約を結ばないため、相続人の関係者である家族の中には「受託者しか関与していない」「収益配当が正しいのか」と不安になる人もおり、不平不満につながりやすいためです。
信託契約を結ぶうえで、受託者を選定した経緯や理由を説明しておくことでトラブル回避につながります。信託契約前に相続人の関係者へ事前説明の機会をつくりましょう。
不動産信託すべき?迷ったらプロから助言を
不動産の活用方法は、不動産信託以外にも賃貸や売却など複数の選択肢があります。不動産信託を選ぶか迷ったら、プロからの助言をもらいましょう。
疑問や迷いがあるままに不動産信託を始めると、運用実績が満足できる結果でないときに失敗に対する不安により、気持ちの維持が難しくなります。
不動産を専門にしているプロの知識や経験に裏付けされた助言は、インターネットや書類にはない貴重な情報です。信託銀行や不動産信託を受託している企業は、定期的に面談や説明会などを実施しているため、積極的に参加しましょう。
この記事の編集者
リビンマッチ編集部
リビンマッチコラムでは、むずかしい不動産の事をできる限りわかりやすく、噛み砕いて解説しています。不動産に対するハードルの高いイメージ、とっつきにくい苦手意識を少しでも取り除いて、よりよい不動産取引のお手伝いをさせていただきます。
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