住宅は生前贈与と相続どっちがいい?それぞれの利点と欠点を徹底比較

将来の相続を考えたとき、住まいの引き継ぎに不安を覚える人は少なくないでしょう。住宅を次の世代に引き継ぐ方法は、生前贈与と相続の2通りが考えられますが、それぞれにメリットとデメリットがあり、どの方法が適しているかはケースバイケースです。
できるだけ負担なく住まいを譲るために、それぞれの特性を理解して最善の方法を検討しましょう。
生前贈与とは?そのメリット
生前贈与とは、贈与者(贈る人)が存命のうちに財産や権利を贈与すること。一般的には、亡くなった際に発生する財産の移転である「相続」に対して使用される言葉です。
贈与者の意思で贈る相手や財産を特定できるため、遺産分割のトラブルリスクを抑えられるのがメリットのひとつです。このため「自宅を特定の相手に遺したい」といったケースでは、有効な手段となり得ます。
しかし、税制や相続の仕組みをしっかりと理解しておかないと、生前贈与によって受贈者(贈与された側)の税負担が重くなったり、逆に相続人同士のトラブルを生むおそれがあったりします。
そのため、まずは生前贈与のメリットを確認しましょう。
住宅を遺したい相手に確実に贈れる
住宅を生前贈与するメリットとしてまず挙げられるのは、特定の相手に財産を確実に贈れる点です。「自分が亡くなった際は、同居している長男に自宅を遺したい」というように、贈りたい相手が明確なケースで有効な手段といえるでしょう。
相続の場合でも、遺言書に記しておけば特定の相手に住宅を遺すことも可能ですが、生前贈与した際は相続発生時にすでに所有権が移転していることから、遺産分割の対象になりません。
配偶者への贈与は2,000万円までが非課税になる
住宅を贈りたい相手が配偶者であるなら、生前贈与が相続税対策として有効に作用する可能性があります。夫婦間で居住用の不動産を贈与したときの配偶者控除という特例制度を利用すれば、最大2,000万円までの贈与が非課税になるからです。
特例を利用するための主な条件は、次のとおりです。
- 婚姻期間が20年以上あること
- 現にその住宅に住んでおり、引き続き住む予定であること
その仕組みの特徴から「おしどり夫婦贈与」などと呼ばれています。
また、贈与税の配偶者控除の特例では2,000万円に加えて基礎控除額110万円も利用できるため、最大で2,110万円相当※の住宅贈与が非課税です。
相続の場合でも夫婦間であれば最低でも1億6,000万円までは非課税とされているため、実際に相続税が生じるケースは少ないかもしれません。
しかし、贈与税の配偶者控除を利用して生前贈与すれば、1億6,000万円までの相続税控除に加えて、2,110万円までの住宅贈与税における非課税枠が利用できます。通常は相続開始前3年以内に行われた贈与の金額は相続財産に加算する必要がありますが、配偶者への居住用不動産贈与の特例では相続財産に加算する必要がないためです。
参考:国税庁「No.4452 夫婦の間で居住用の不動産を贈与したときの配偶者控除・夫婦の間で居住用の不動産を贈与したときの配偶者控除」
贈与後に価格が高騰しても相続税は変わらない
住宅のように金額が明確でない財産は、贈与時の価格が課税対象額として評価されます。このため贈与後に価格が高騰した場合、相続時の評価額よりも少ない税負担で済む可能性があります。
2023年の国土交通省の地価公示によれば、全国的に土地の価格は上昇傾向にあるといえます。
全用途平均・住宅地・商業地のいずれも2年連続で上昇し、上昇率が拡大した。
引用:国土交通省「令和5年地価公示の概要」
また、全国的に不動産価格が低い水準で停滞していたときでも、鉄道路線の開通などによって価格高騰を招いたような事例も少なくはありません。
将来的に土地の価格上昇が見込まれるようなケースでは、生前贈与が節税につながる可能性があります。
最大2,500円まで贈与税が非課税になる
一般的には相続よりも生前贈与のほうが課される税金が高くなりますが、特定の制度を利用することで贈与税のデメリットを抑制できます。その仕組みが「相続時精算課税制度」です。
相続時精算課税制度は、最大で2,500万円まで贈与税がかかりません。贈与者が亡くなり相続が発生したときに、それまでの贈与財産の総額を相続財産に合計して相続税を計算する仕組みです。
さらに、贈与額と相続財産の合計額が控除額以内の場合は相続税がかからないため、過去の贈与税も納める義務がないのです。これによって住宅のような高額な財産を生前贈与する場合でも、税制面のデメリットを抑制できます。
住宅を生前贈与するデメリット
住宅を生前贈与した場合に発生するデメリットは、主に税金に関するものです。相続税は過大な負担とならないよう、さまざまな特例制度が設けられてますが、生前贈与で利用できる特例は限られています。
そのため、税金の負担が増えるおそれがあります。
相続時精算課税は節税になるとは限らない
相続時精算課税制度の利用によって生前贈与の税制面でのデメリットを抑制できるとはいえ、それが節税につながるとは限りません。あくまで贈与時点での税の納付が不要になるだけで、相続が発生した時点で相続税の課税対象に算入される仕組みだからです。
生前贈与した住宅の評価額を加えた相続財産の総額に対して相続税が課されるため、結果的に税金納付の先送りにしかならないおそれもあるでしょう。このため生前贈与を検討する際は、その時点での住宅の市場価格を正確に把握しておくことが不可欠です。
また、相続時清算課税を選択した場合は、1~12月までの贈与に課税する「暦年課税」※に戻せなくなる点にも注意しましょう。
「住宅の贈与」は住宅取得資金贈与の特例の対象外
親や祖父母などの直系尊属から住宅を購入するための資金を贈与された場合、省エネなど特定の性能を備えた住宅の場合には1,000万円まで、それ以外の住宅の場合には500万円までの贈与が非課税となる「住宅取得資金贈与の非課税制度」という特例があります。
高い節税効果が見込める特例制度ではありますが、これはあくまでも住宅取得資金の贈与の場合に利用できるもの。住宅そのものの贈与の場合には適用されないことに注意しましょう。
参考:国税庁「No.4508 直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税」
評価額によって税負担が重くなる
贈与時の評価額で税額が算出されるため、その後に不動産価格が高騰した場合などには大きな節税効果が見込める反面、逆に価格が下落した場合などには相続の際よりも高い評価額で税額が計算されます。
また、住宅を相続する際には大きな節税効果が見込める特例制度が存在することから、税負担は生前贈与のほうが大きくなる可能性があるのです。所有権移転に伴う登録免許税も、相続より贈与のほうが高くなる点にも注意しましょう。
不公平な贈与によるトラブルもある
住宅の生前贈与となれば、金額に換算するとかなり大きな贈り物になる可能性が高いでしょう。特定の1人に住宅を贈与することで、ほかの相続人が受け取る財産とのあいだに大きな格差が生じる場合には注意が必要です。
特定の相続人だけに行った贈与は「特別受益」と呼ばれ、「過去に行った贈与も相続財産の一部とみなして公平に分割する」という考え方があります。そのため、住宅の生前贈与によって財産の分配割合に著しく不公平が生じるような場合、それが親族間のトラブル要因になるかもしれません。
住宅を相続するメリット
住宅を相続する際のメリットは、税制面でさまざまな優遇措置が受けられることでしょう。
相続税には「3,000万円+法定相続人の数×600万円」という基礎控除額に加え、住宅の相続の際にはさらに税負担を軽減する特例措置が設けられています。
これらを活用することで、大きな節税効果を見込めるのです。
小規模宅地の特例などで節税効果が見込める
亡くなった人やその家族が住んでいた住宅を相続する場合、一定の要件に当てはまれば土地の評価額を大幅に減額する特例制度の適用を受けられます。それが「小規模宅地等の特例」です。
相続財産が被相続人の居住していた住宅の場合、330㎡までの土地であれば評価額の80%が減額されるという、節税効果の高い仕組みです。住宅だけでなく、被相続人の事業に使われていた土地なども対象です。
この特例は相続で不動産を取得する場合に限られるため、生前贈与は対象となりません。また、相続開始前に住宅を売却し現金として遺産分割する場合は適用されないことも覚えておきましょう。
参考:国税庁「No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)」
築年数が古いほうが節税になる
建物価格は「減価償却」という観点から、古くなるほど建物の評価額、つまり建物の金銭的価値が下がる仕組みを採用しています。
このように金銭的価値が下がることで、不動産を有効活用しにくくなり売却価格も下がります。しかし、節税の観点から見ると、築年数が古い建物は評価額が低くなるため、相続税が少なくなる可能性があります。
一方、生前贈与は、生きているうちに贈与するものなので、相続時に比べ建物の築年数は浅いです。一般的に築年数が浅いほうが金銭的価値が高いため、生前贈与では建物の評価額も高くなります。
死亡時に住宅を相続する場合、生前贈与時より古い建物であるため、評価額つまり税額算出の基礎となる金額が抑えられ、相続税の節税につながる可能性があるのです。
住宅を相続するデメリット
遺言書で遺産分割方法などを指定していた場合を除いて、相続財産は法定相続分を基本として分割するのが一般的です。
しかし、相続財産に住宅が含まれている場合、法定相続分どおりに分割することが難しくなるおそれもあるでしょう。現金のように容易に分割できないことが、住宅を相続するデメリットのひとつです。
簡単に分割できないゆえのトラブルもおこる
相続財産という視点で住宅を考えた場合、現金などとは違って「容易に分割ができない」特性も持つことにも注意が必要です。
複数の相続人が遺産を分割するケースでは、法定相続分などの割合を目安に分割するのが一般的ですが、不動産の場合は簡単ではありません。法定相続分に応じた持分割合で共有することで「法律的には」分割できますが、別々の世帯で生活している相続人がひとつの家で暮らすのは現実的ではないでしょう。
誰も住まずに共有持分だけを所有する場合には、空き家の管理という別の問題が生じます。将来的に次の相続が発生した場合、さらに共有者が増えて持ち分が細分化し、処分が困難になる場合もあります。
共有という方法は、結局のところ問題の先送りでしかありません。
代償金が支払えないケースも
分割できない財産を特定の1人が相続するケースで公平さを保つ方法の一つとして、財産をもらう代わりに別の相続人に分割割合に応じた代償金を払う「代償分割」という仕組みがあります。
兄と弟の2人が共同相続人で、相続財産が2,000万円相当の住宅だけだったとしましょう。兄が住宅を相続する代わりに、弟に対して法定相続分に当たる1,000万円を代償金として支払うのがこの方法です。
「もともと兄が親と同居しており、今後もその家に住み続ける」といった場合に有効な方法ですが、支払うべき代償金を用意できなければ成立しません。代償金がいくらになるのかを知るために、自宅の価値を知っておく必要があるでしょう。
売却の場合は手間がかかる
複数の相続人が住宅を分割する方法にはもうひとつ、「換価分割」という仕組みがあります。住宅を売却して現金化し、その売却代金を分割する方法です。相続人の1人が住んでいるなどの事情がない場合には、現実的な手段といえるでしょう。
ただし、住宅を売却する際には、相応の手間と時間がかかります。不動産の売却では、不動産会社による買い取りと、不動産会社の仲介によって買い手を探す2通りの方法があり、どちらかというと後者、仲介による売却が一般的です。広告などによって買い手を探し、内覧などを経て売買契約を結ぶ方法といえばわかりやすいでしょう。
買い手が購入を決意するまでの時間や、住宅ローンなどによる資金調達に要する時間などを見込んでおく必要がありますから、売却まで数カ月を要することも少なくありません。その一方で、相続人には相続発生から10カ月以内に、相続税の確定申告や納付を終える義務がありますから、限られた時間の中で住宅の売却に労力を割くことが大きな負担となるおそれがあります。
不動産会社の買い取りであれば手間や時間をかけずに済むメリットがありますが、売却金額は仲介の場合に比べて安くなるのがデメリットです。
子どもが相続する場合、家に住まない場合は売却の選択肢も
相続人が「すでに自宅を所有している子ども」であるなど、相続する家に住む予定がない場合は「先に売却して現金を相続する」選択肢も視野に入れましょう。売却によって住む家はなくなりますが、売却資金で住みやすい家に引っ越せます。
相続後の家の管理は、子どもが担当することになります。子どもが相続した家に住まなければ、その家は空き家になりますが空き家はあるだけで税金が課税され子どもにとって金銭的負担です。そのため、売却などの選択肢が考えられますが、家が古いほど売却価格は低くなるのが一般的ですので、早めに売却したほうが金銭的メリットは大きいです。
また、相続財産の確定申告には期限があり、相続開始後に売却しようと思っても時間的な猶予が限られてしまいます。短い期間で古い家を高値で売却するのは、困難です。
以上を踏まえると、先に売却する選択は、遺産分割を円滑に進めるためのアドバンテージとなります。
ただし税制面では、住宅の相続に比べて現金のほうが不利になる可能性があります。売却価格を把握するために不動産の一括査定サイトなどを活用し、売却に伴う税金などのデメリットについても専門家のアドバイスを受けることが大切です。
本人にとっても相続人にとってもメリットのある選択をできるよう、税負担などのデメリットを把握しておきましょう。
最善の選択には「家の価値の把握」が大切
財産に不動産がある場合、それを生前贈与するのがよいか、相続するのがよいかはケースバイケースです。どちらの方法を選択するにせよ、それぞれの事情に応じた最善策を導き出すには、「現在の家の価値」を把握しておくことが一番大切といっても過言ではありません。
できるだけ正確な売却価格を知るには、不動産の一括査定サイトを使うのがよいでしょう。一度の入力で、複数の不動産会社からの売却査定を一括で受け取れるため、効率的かつ正確に現在の家の価値を確認できます。